小説というにはおこがましいですが、ちょっと前々から書いてみたかったのでやってみました(笑)お暇な方は読んでみてください。長くなりそうなので途中で切りました。2はまた後日にでも・・・。誤字脱字、感想などあればコメント頂ければ喜びます。
靴下 1
最終電車を千鳥足で見送った男は酷く酔っていた。駅から出ると止まってるタクシーをチラッとみたが、タクシーに背を向け歩いて帰る事にした。家は駅から歩いて10分。ただ今日は酔っ払っているのでなかなか思うように前に進めない。それに加え、ここ何日かで急に気温が下がり、息も白くなった。100mほど歩いた頃、男は立ち止まり、自分が出てきた駅の方を振り返る。田舎なので最終電車の客を拾った数少ないタクシーはもうすでに1台も止まっていないようだ。
「ちっ。」
男は大きく舌打ちをする。タクシー代をケチった事を後悔し始めていたころ、男の目の前を大きめの野良猫がゆっくり歩く。そして男を嘲笑うかのように低い声で「なー」と鳴いた。
「くそっ。どいつもこいつも舐めやがって。」
男はその猫の横っ腹を思いっきり蹴った。「グゥバッ」と悲鳴に近いような声を出し猫は宙を舞ったが、着地するやいなや逃げるように猫は走り去った。
「ざまぁみろ!」
男は怒っていた。その日、会社でミスを連発してしまい、年下の上司に酷く叱責されたのだ。
「あんたさぁ、あんまり物覚えよくないんだからさぁ。せめてメモくらい取りなよ。こんなの新人だって当たり前にやってることなんだよ!!頼みますよホント。はい、今俺が言ったことちゃーんとメモしましたか〜?」
フロア全体に響き渡る怒号。どこからともなくクスクスと聞こえてくる。そのクスクスが次第に遠のいて行く感覚に見舞われた。現実逃避。まだまだ続いているだろうコイツの説教は俺には全然聞こえてこない。どうでもいい。この会社に俺の居場所なんかないのだ。
酒だ。酒を飲めばリセットされる。何もかも。
もう半分は帰れただろうか。もう少しで家だ。そう考えていた矢先、男は何かにつまずきヨロけた。
「ここは・・・ゴミ捨て場?」
そこには人が足を伸ばして座っていた。男はその人の足につまずいたのだ。
「うわーーー!!」
男はビックリして腰を抜かした。でも何かおかしい事に気づく。よくみるとそれは人ではなく、よく理科室などに置いてあるような人体模型だった。
「なんだよ気持ちわりぃな!!誰がこんなもの捨てるんだ!!ビビらしてんじゃねぇよ!!」
男は思いっきりその模型の顔面を蹴った。座っていた状態の模型は衝撃で横たわり、頭の部分の留め金が緩み、模型の脳味噌がゴロンと飛び出る。と、同時に蹴った勢いで男の靴は脱げ、ゴミ捨て場のゴミ袋の上にドスッと落ちた。男は酔っているのもあり、その場に座り込んだ。そこで初めて自分の靴下の親指の部分が破けていた事に気づいた。
「へへっ」
男は笑い、破れている靴下を脱ぎ人体模型の足にその靴下を履かせて、大声で叫んだ。
「今日は寒いですからね〜。靴下プレゼントしますよ〜!今俺が言った事ちゃーんとメモしとけよ!馬鹿野郎が!ふざけんな!」
男は立ち上がり素足で靴を履きヨロヨロと家に向かって歩き出した。
脳味噌が外れた人体模型は千鳥足の男が去って行く方向を見るような形で倒れていた。
次の日、男はリビングのソファの上で、不快な頭痛と倦怠感で目が覚めた。完全な二日酔いだ。昨日の事がよく思い出せない。なんで俺は片方靴下を履いてないのだろう?まぁいい、そんな事より風呂だ。
風呂から上がった男はバスタオルで髪の毛をゴシゴシと拭きながら冷蔵庫を開け、2リットルのペットボトルに入ったミネラルウォーターをラッパ飲みでゴクゴクと豪快に飲む。飲みながら、相変わらず散らかってる自分の部屋のリビングを見回した。男の一人暮らし。狭いアパート。
フッと小さく鼻を鳴らし、持っていたペットボトルを仕舞おうと冷蔵庫のドアを開けた。ペットボトルを冷蔵庫に入れ、バタンとドアを閉めたが、男は何か違和感を感じ、もう一度冷蔵庫のドアを開けた。
冷蔵庫の中には靴下が片方だけ入っていた。
「なんで・・・?」
男は靴下を手に取り眺める。親指に穴が空いてる・・・。
「馬鹿だな俺は・・・昨日結構飲んだもんな。」
いけない、会社に遅刻してしまう。そう思った男は靴下を洗濯機の中に放り込み、せかせかと身支度をすませ会社へ向かった。
つづく